KiiLife試乗記
ダイハツ
ブーン・シルク


【スペック】
(GパッケージSAII) 全長×全幅×全高=3660×1665×1525mm▽ホイールベース=2490mm▽車重=910kg▽駆動方式=FF▽エンジン=996cc水冷3気筒DOHC、51kW(69馬力)/6000回転、92Nm(9.4kg)/4400回転▽トランスミッション=CVT(自動無段変速機)▽燃料消費率=28.0km(JC08モード)▽車両本体価格=165万7800円

【試乗車提供】
田辺ダイハツ販売
(田辺市東山1丁目、0739・22・2323)

[2016年5月12日 UP]
 排気量1000ccの小型乗用車、ダイハツの「ブーン」に試乗した。軽自動車づくりのノウハウを生かし、広い室内や低燃費を実現しながら価格を安く抑えた。トヨタからは「パッソ」の車名で販売されている。

リッター28kmの低燃費
 水平基調のフロントグリルを採用したブーンと、六角形のフロントグリルに丸形のヘッドライトを組み合わせたブーン・シルクがある。シルクは、同社の軽自動車「キャスト・スタイル」によく似ている。スリーサイズは全長3660mm、全幅1665mm、高さ1525mmで、国産の小型車(登録車)では最小クラス。輸入車ではフィアット500やスマート・フォーフォーがブーンよりやや小さい。
 直列3気筒の1000ccエンジンは最高出力69馬力、最大トルク9.4kgを発生する。燃焼効率の改善やアイドリングストップ機能の採用などによりガソリン1リットル当たり28.0km(JC08モード)の低燃費を実現している。これはガソリンのコンパクトカーでは最も優れた数値になる。
 グレード別の価格を見ると、最も安いブーンXは115万200円、最上級のシルクGパッケージSAIIが165万7800円(いずれも前輪駆動車)で、軽自動車と重なる。各グレードに四輪駆動車も設定されている。

小さいけど広い
 試乗したシルクGパッケージSAIIは衝突回避支援システム「スマートアシストII」を標準装備している。前方の車両や歩行者に衝突する危険がある場合に警報を出す衝突警報機能や、先行車との衝突を回避する緊急ブレーキ、ペダルの踏み間違いによる急発進を抑制する機能(前後)、車線からはみ出しそうになるとブザーと表示で知らせる車線逸脱警報機能、先行車発進お知らせ機能と多彩だ。
 内装は、黒を基調にグレーと朱色でアクセントを付け、上質感を出している。インパネやドア周りを直線的なデザインにしている効果で、運転席に座ると実際の車幅以上に室内が広く感じられる。
 運転席の着座位置はやや高めで視界がいい。ワゴンタイプの軽自動車ほどではないが、シートをやや立てたドライビングポジションになる。シートは、ベンチタイプにもかかわらずサイドのサポートがしっかりしているので、カーブでも上半身をしっかり支えてくれる。助手席との間には幅が広めのアームレストを備えている。
 小さな車体なのに十分に広く、後部座席は膝の前に握り拳が縦に二つ入る余裕がある。天井は握り拳一つ半で、こちらもゆったりしている。5人乗りなので、3人分のヘッドレストもしっかり備えている。
 乗車スペースを優先しているので、荷室は小さめだ。リアシートの背もたれは6対4に分割して倒すことができる。同社の軽自動車ムーヴに採用されているリアシートの座面が沈み込んで荷室が完全に平らになる機構や、シートの前後スライド機能を備えていないところが残念だ。

5人乗り軽自動車?
 発進は予想以上に滑らかだった。CVT(無段自動変速機)がエンジン回転を2000回転前後に保ったままスムーズに加速していく。このあたりは排気量660ccの軽自動車に比べてずいぶん余裕がある。
 とはいえ、上り坂や追い越しの場面では力不足を感じることがある。アクセルを大きく踏み込むとエンジン回転が先に上昇して、後からじわりとスピードが増すというCVTのくせが顔を出す。
 この車はやんわりアクセルを踏むという乗り方が似合っており、小さなエンジンを積極的に回して走りたい人はストレスがたまるかもしれない。
 操縦性はどうだろうか。先代のモデルは足回りが柔らかくてふわふわした乗り心地だったが、新しいブーンは少し堅めに変更された。ハンドリングは素直で、カーブの外側に引っ張られるアンダーステアも弱めだ。前後のサスペンションにはカーブで車体の傾きを抑えるスタビライザーが装着されており、安定性が増した。ムーヴなど軽自動車に採用されている機構を採用したものだ。
 普及価格帯の乗用車はコストを抑えるために前輪のスタビライザーがないものが多く、カーブで姿勢が不安定になりがちだ。ダイハツは軽自動車にもこういった基本的なことをきちっとやっている。
 アイドリングストップは時速9km以下で作動するタイプ。信号待ちや一時停止で減速した際にも早めにエンジンが止まるので、燃費の低減効果は大きい。一方で、停止と再始動を頻繁に繰り返すことから、煩わしく感じるドライバーもいるかもしれない。
 軽自動車が国内新車販売の4割を占める中で、ブーン(パッソ)はどのような位置付けになるのだろうか。いまの軽自動車は室内が広くて使い勝手がよく、小回りが利いて燃費もいい。乗り心地もレベルアップしており、日常の利用では十分な性能を備えている。
 最大の難点は、乗車定員が4人に限られていること。できるだけコンパクトな車が欲しいが後席に3人乗せる機会があるという人には、ブーンのような車がぴったりだ。「5人乗りの軽自動車」と考えれば、小さな車体と広い室内が生きてくる。

リポータープロフィル
  【長瀬稚春】 運転免許歴41年。紀伊民報制作部長。