KiiLife試乗記
スズキ
バレーノXG


【スペック】
全長×全幅×全高=3995×1745×1470mm▽ホイールベース=2520mm▽車重=910kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1242cc水冷4気筒DOHC、67kW(91馬力)/6000回転、118Nm(12.0kg)/4400回転▽トランスミッション=CVT▽燃料消費率=24.6km(JC08モード)▽車両本体価格=141万4800円

【試乗車提供】
スズキアリーナ田辺・田辺スズキ販売
(田辺市下万呂567、0739・22・4416)

[2016年4月14日 UP]
 スズキの新型車「バレーノ」はインドで生産する自社ブランドの輸入車。広い室内とゆったりした操縦性が持ち味の、バランスの取れたファミリーカーだ。ミリ波レーダー方式の自動ブレーキや先行車との車間を一定に保つアダプティブクルーズコントロール(ACC)を標準装備しながら141万円という車両本体価格は割安感がある。

小型車を充実
 スズキは2015年2月にクロスオーバーモデルのSX4 S-CROSS(エスクロス)を発売したのを皮切りに小型車のラインアップを拡充している。8月に小型ワンボックスのソリオを全面改良。10月にはスポーツタイプ多目的車(SUV)のエスクード、16年1月にイグニス、さらに今回のバレーノと続く。イグニスとバレーノは全くの新型車だ。
 このうちSX4とエスクードはハンガリーの子会社であるマーシャルスズキ社で、バレーノはインドのマルチ・スズキ・インディア社で生産して輸入する。
 スズキは1983年からインドで乗用車の生産を開始し、2015年には141万台の生産実績がある。インド国内の乗用車販売では46.5%のシェアを持つ。
 インド製の乗用車が日本で販売されるのはバレーノが初めてだ。年間の販売目標は6千台と控えめだが、カタログにはインドの最新鋭工場の様子や生産実績を説明したパンフレットを挟み込むなど力が入っている。
 国内メーカーが海外で生産し日本に輸入しているコンパクトカーは、スズキ以外にも日産自動車のマーチや三菱自動車のミラージュがある。いずれもタイで生産している。

5月には1リットルターボも
 バレーノの車種構成はシンプルだ。3月に発売されたのは1.2リットルの自然吸気エンジンを搭載するXG(車両本体価格141万4800円)。3気筒、1リットルのターボ・エンジンを搭載するXT(同161万7840円)は5月に発売される。
 1.2リットル自然吸気エンジンはスイフトやソリオ、イグニスと同じで、最高出力91馬力、最大トルク12.0kgを発生する。省燃費対策であるエネチャージやアイドリングストップは装備していない。それでもJC08モード燃費はリッター24.6kmと優秀だ。
 1リットルエンジンは、国内初投入のダウンサイジング・ターボ。燃料の直噴化とターボ過給により1.6リットル自然吸気エンジン並みの最高出力111馬力、最大トルク16.3kgを発生する。最大トルクの発生回転が1500〜4000回転と幅広いので扱いやすそうだ。ただしガソリンはレギュラーではなく無鉛プレミアム(ハイオク)が指定。JC08モード燃費は20.0kmになる。

バランスが取れた一台
 試乗車は、オプションのホワイトパールを身にまとったXG。2月に発売されたイグニスは、軽乗用車のアルトと共通の直線的な力強いデザインを採用しているが、バレーノは流体をイメージした曲面で構成されている。写真のバレーノは丸みを帯びたぽっちゃり系のスタイルに見えたが、実車は意外にスマートだった。車高が1470mmと低いためだ。
 スズキの世界戦略車であるスイフトは軽快な走りが持ち味だが、後部座席と荷室が狭いのが課題だった。バレーノはスイフトよりも全長が145mm、全幅が50mm大きいので、室内スペースがゆったりしている。
 運転席の頭上スペースは、身長174cmのリポーターで握り拳が縦に二つ入った。後部座席は頭上が握り拳一つ半、膝の前には一つ分だった。荷室はラゲッジボードで上下2段に分割でき、容量は320リットル。9.5インチのゴルフバッグも積むことができる。
 バレーノは新開発のプラットホーム採用により軽量に仕上がっており、車重はスイフトより100kgも軽い910kgに収まっている。そのおかげで、1.2リットルエンジンでも出足は軽快で、さらにエンジンが3000回転を超えると一段と活発に加速する。バイパスを60kmで走っているときのエンジン回転はおよそ1400回転。ハンドルは適度な重さがあり直進性も良かった。
 ハンドリングそのものは、スイフトのきびきびした感じとは対照的におっとりしている。カーブで外側に引っ張られるアンダーステアもやや大きめだ。足回りは、路面のざらざらした感じをよく吸収してくれる。タイヤが175/65/15という厚みのあるタイプなので、そのクッション効果が加わっているのかもしれない。
 バレーノの141万円という価格帯は軽乗用車の上級グレードと重なる。その上で装備をチェックするとかなりお買い得だ。キーレス・プッシュスタートや運転席シートヒーターをはじめ、横滑り防止装置、時速5〜100kmまで作動するミリ波レーダー方式の衝突被害軽減システム、さらに時速40〜100kmの範囲で速度を設定すると先行車との車間距離を一定に保ちながら追随走行するACCまで標準装備している。
 ユーザーが最も気になるのは、インド製の品質だろう。インパネはプラスチックで成型されていて、このクラスのコンパクトカーでは標準的な仕上がり。ボトルホルダーや小物入れなど収納スペースがたくさん設けられている。スズキは「インドの生産工場に日本人の熟練検査員を配置して日本国内と同レベルの品質基準を確保している」と説明している。
 車は10年、10万kmといった長期の品質維持や耐久性が求められるのですぐに結論は出せないが、試乗した範囲では海外生産のハンディは感じられなかった。

リポータープロフィル
  【長瀬稚春】 運転免許歴41年。紀伊民報制作部長。